「2007 萩往還マラニック250km」完踏記

                                      北村 敏克



2007年5月2日、なぜか私は、萩往還マラニックのスタート地点にたっている。
250qを走るなんて特別な人以外、絶対に無理なことと思い続けていたのに。
何回も完踏されている、加茂パの藤井さん、今坂さん、山下さん達のつわ者と一緒に
並んでいることが不思議に思えた。

最初の13qまでq6分前後で走ったが、周りの人たちも付いてくる。
その後も、頑張って走り続けているのに、57qの山本ボートのエイドでは、
昨年の最終ランナータイムと同じと言われ、がっかりした思いと、
さすがに、250qを走る人は、すごい人達の集まりなんだと感嘆した。

俵島周回100q付近 両足の大腿四頭筋がとても痛い。フラットでも歩きが多くなる。
ふきこさんの予測では、このままの歩きでは時間内完踏できない。
「私が次のエイドでリタイアするから、ひろっさん、ふきこさんは完踏してください
。」と言うが、ふきこさんは、「いけるところまで行きましょう。」と励ましてくれ
る。開き直ってビールで痛み止めの薬を飲むと復活したかのように走れた。

仙崎から鯨墓往復142〜163q、ここで元気付けのためまたもビールを飲み、おにぎり
を食べた。しかし、長い登りでは、足がまたも痛くなりだした。気力もヘロヘロ状態
に疲れている。足は「もう動くのは嫌だ」と言っており、身体も「止めたら楽になる
よ。」と何度もリタイアを誘う。

180q地点の宗頭まで走れば少しは眠れる。その期待で頑張るが夜道は長く、眠く
、辛い。そして大腿もとても痛い。

宗頭での30分程度の仮眠だが、足がとても楽になった。
完踏するには、午前2時までに出発しなければならない
 私達の出発は午前1時45分。ふきこさんが「時間内完踏は無理かもしれない」とい
う。けれど、私の心の中では、必ず走りきってみせると何度も言い聞かせていた。

その後、萩城跡から、笠山、虎が崎、東光寺、明木市までは、ゆっくりだが粘って
走った。明木市からの一升谷の登り227q付近、佐々並からの国道の登り242q付近は
最後の登りであるが、走れずに歩いている。

ここでは身体の限界なんだろうか、幻覚が見える。前方の視力がないのに、
テント張り、子供達、お寺の建物が立ちふさがる。私が近づくとどんどん遠ざかる。
ひろっさんが伴走ロープを強く引く。それによって我に返る。もうろうとした意識の
中で歩いているらしい。きついレースである。

途中、何度もこれからのウルトラマラソンは絶対に出場しない。
このレースも、すぐに止めたいと思った。逃れる口実はいくつも頭に浮かぶ。
けれど、他人に合わせるペースで走りを続けている伴走者のストレスのほうが
もっと、大きく、辛いのではなかろうか。私がリタイアすれば、好意でしてもらって
いる伴走が、無意味に感じられ、さらに、がっかりされるだろう。
そして、ランナー仲間達の応援に応えられない責任を感じられるのではないだろうか。
と考えると、私一人だけのことではなく、三人が一体となって走っているのだと
思えた。

夕陽の一の坂ダム、ゴールまであと2〜3q付近では、なぜか涙が出てくる。
 私はなんと幸せな人間だろう。ひろっさん、ふきこさんに支えられて、
そして多くの人たちに応援され、まもなく250qを完踏できそうだ。
男ならみっともないから泣くなと自分に言い聞かせるのだが、感謝の気持ちいっぱい
で、涙がこぼれ落ちる。ゴールしたら、ふきこさんには、大好きなアイスクリームで、
顔じゅうアイスクリームだらけにして食べてもらおう。そして、ひろっさんには
ビールのプールで泳いでもらおう。そんな気分で、いっぱいだった。
47時間26分、三人で手をつないでゴールできた。
生涯に残る最高の思い出となった。


励みとなったこと
◎自分のペースをおさえて、私があるきたい時に歩いてくれる、ひろっさんの伴走。
◎常に明るい話題のふきこさんのおしゃべりと、
「熱が出たり、けがなどの故障がなければ1歩でも前に進みましょう。」と言う
励ましの言葉。
◎昨年最終ランナーの山崎さんの言葉「自分の痛みは他人とは違い特別に痛いと思う
が、誰もが、自分こそ一番辛いと思っている。精神的な粘りさえあれば完踏できる。

◎一緒に走ってくれた中野さん、くーさんの必ず完踏するんだと言う強い決意と
粘り強い走り。
◎途中で出会う藤井さん、山下さん、今坂さんからの励ましの言葉。
特に、今坂さんは、何度もウルトラマラソンを伴走してもらっており、
心配げに、前半、後半を見守るように併走してもらった。
◎これも途中で出会ったミッキー、石井さんペア、トータス斉藤、栃木さんペア、
走る距離は違っていても同じブラインドランナーが頑張っている。
中でも石井さんは、昨年、私の伴走をし、今年はミッキーの伴走をしてくれている。
頭の下がる思いである。
◎若ちゃん練習会や、いつも一緒に走る仲間である、快走する久保君からはねぎらい
と、励ましの言葉。そして、きいさん、杉下さん、若ダンナ、ボス、高木さんなど、
多くの知り合いとすれ違うときの励ましの言葉。
◎数多くのふきこさんファンの励ましの応援、私設エイド、大会スタッフの人たちの
声援など。
◎とばしすぎて無念のリタイアをした奥村君の気持を考えると、
きっと完踏を願ってくれているだろうと思えた。
◎藤井さんの堪難辛苦のトランスえぞの完踏、その他多くのブラインドランナーの
完走を実現させてきた、おケイちゃんの魔法の網ロープをスタート前にもらい、
今回は、これで走ることにした。
など、など多くの諸条件が私を支えてくれ、完踏ができた。

今回の感想
250q、48時間はとても長く、走行する持続力、辛さに対する忍耐力、
故障への対処、眠気の克服などで、誰もが言う通り、普通の人にない忍耐力が
必要であると思えた。
しかし、終わってみれば、多大なる他の人の支援をもらっての話だが、
普通の人間である私にでも、やればできる。とも思えた
その内容は、まさしく、人生の縮図のようにも思える。
 私を支えてくれ、応援してくれた多くの皆様に心から感謝します。
本当にありがとうございました。

       

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