ウルトラマラソン

「第
11 四万十川ウルトラマラソン」共走記 

                           中野 淳一

大会前3ヶ月間の走行距離は116キロ、97キロ、212キロとお世辞にもがんばったとは言えない。1回当たりの走行距離も28キロが最長で、ほとんどが10キロ前後の練習内容。こんなんで完走できるだろうかと不安を抱えながらの現地入りだった。

宿はゴール会場近くにあるビジネスホテル一条さんにお世話になった。トイレと風呂は共同だが部屋は小奇麗で食事も美味しかった。8時ごろにベッドに入ったが、いつもながら容易に眠りに入れない。誰かが廊下を歩く音や犬の鳴き声ですぐに目が覚める。うつらうつらと眠っているのかいないのか分からぬままに時間が過ぎていった。

2時半起床。食事を済ませ、身支度を整えて宿を出ると空には満天の星。今日は秋晴れのいい天気になりそう。シャトルバスに乗りスタート会場の蕨岡中学に4時頃に着いた。軽いストレッチをした後は時間を持て余してぶらぶらしていたがスタート30分前頃になって急にお腹が痛くなった。トイレに行くと、長蛇の列に唖然。やっと順番が来て用を済ませて出てくるとスタートへの誘導は既に終わり最後尾からのスタートになってしまった。こうなったら練習不足でもあるし最初の峠までは周りのペースに合わせてゆっくり行こうと決めた。

5時半スタート。制限時間14時間の100キロ耐久レースが始まった。暗い道路を照らすかがり火が遥か遠くまで点々と続いている。かがり火が無くなると今度は車のライトが道路を照らしていた。まだ朝早い時間なのに沿道の家々からたくさんの人が応援に出てきている。家の前で毛布に包まって手を振る幼い姉妹。何かの箱に座ってニコニコしながら応援しているお婆ちゃんお祖父ちゃん。やはり田舎はいいなと感激してしまった。

10キロ通過でキロ7分弱のペースを確認した。かなりゆっくりだがそのまま流れに乗って走る。徐々に坂が急になっているようだが足にくるような勾配ではないと思った。21キロ付近の峠を過ぎて下りに入ると自然とペースが上がってくる。約10キロ程の長い下りが続くので、足に負担がかからないように細かいピッチを意識して走る。

30キロを過ぎ、いよいよ四万十川と合流した。足も快調でキロ5分半までペースを上げる。このまま行けるかなと思ったが、ウルトラはそんなに甘くは無かった。40キロを過ぎて少し足が固くなってきた。50キロを過ぎるとやはり練習不足なのだろう、ペースがキロ7分くらいまで落ち込む。エイドでの休憩が長くなる。ちょっとした坂があると歩いてしまう。半家(はげ)沈下橋に着いたが眺めを楽しむ余裕は無く、対岸まで渡り戻ってくるのが面倒なくらいの疲労感があった。暑さのせいか目線が定まらず頭がクラクラしてきた。経験では、このまま行くと蛇行が始まり危険な状態になる。62キロのレストステーションで仮眠をとれば何とかなるかも。ひたすらそこに辿り着くことだけを思って足を前に出す。
 60キロをフラフラしながら通過。この10キロは75分も掛かってしまった。あと少し、あと少しと自分を励ましながらレスト(カヌー館)に到着。暑さで食欲が無かったが後半のことを考えてお握りを口に押し込み、水とスポーツドリンクで胃の中に流し込んだ。そしてテントの中で大の字になり目を閉じる。先々の関門時間ギリギリで行こうとすれば何時まで寝ていられるかを頭の中で計算したり、いっそ収容バスが出るまで、ここで寝ていようかと楽なことを考え始めたりする。逆に、高い旅費と参加費を払って休暇まで取って参加したのだから簡単にリタイアするには勿体無いという考えも出てくる。結局貧乏性が勝った。弱気を振り払い、足のストレッチをして出発を決める。完全に回復していないが前に進めばなんとかなるだろう。

暑いというより熱い。頭が朦朧として体に力が入らない。惰性で前に進んでいる状態が続く。次の目標を80キロに設定し、残り20キロまで行けば絶対に完走できると自分を納得させる。岩間沈下橋でも勿体無いけど景色を楽しむ余裕は無かった。坂道は歩き、70キロ過ぎのエイドでもしばらく仮眠をとり、同じようなペースの人の後ろにくっつき必死の思いで80キロまで進んだ。60キロからの10キロ毎の時間は96分、92分と自分でも信じられないくらい遅いペースになっていた。でも前後を走るランナーも同じようなペースでギリギリの状態で走っている。苦しいのはみんな同じなんだ。そう思うと気持も体も少し楽になった。

80キロを過ぎてしばらく走るうちに不思議と体が軽くなってくるのを感じた。楽に足が前に出るではないか?!お日様が低くなったためか気温が下がり涼しさを感じる。今までの不甲斐無い走りにサヨナラだとばかりに一気にスピードアップ。これまで抜かれた分を少しでも抜き返すつもりで唖然とするランナーを尻目にどんどんスピードを上げた。そして残り10キロ、足が折れない限り完走できるだろうと確信した。

沿道の声援が「がんばれ」から「お帰りなさい」、「もう少し」に変わっている。最後の坂を上り始めた。歩いているランナーがほとんどだが、腕を大きく振って最後の力でぐいぐいと一気に上りきった。下り坂を右へ曲がり、徐々にゴールが近づいて来る。前方で紙吹雪が舞っている。沿道に並ぶ地元の人達、紙片を撒いて祝福してくれる子供達。名物の紙吹雪を頭から浴びながら完走の喜びに浸る。中村中学高校のグラウンドへ入るとゴールランナーを紹介するアナウンスが会場へ響き渡った。苦しかっただけに感激の完走フィニッシュだった。

体育館の中で着替えをしていると小さな紙片が床に落ちた。紙吹雪の紙片が汗でウェアにくっ付いていたらしい。四万十川の自然と清流、同じ苦しさを味わったウルトラランナー達、そして暖かい応援をしてくれた地元の人達との共走の一日だった。小さな紙片を今日の想い出に大切にとっておこうと思った。

以上

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